大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和41年(行ウ)108号 判決 1970年7月29日

原告 朝井康人

<ほか五名>

右六名訴訟代理人弁護士 三上英雄

吉成重善

右訴訟復代理人弁護士 佐藤富造

被告 東京国税局長 安川七郎

右指定代理人 山田二郎

<ほか三名>

右訴訟代理人弁護士 鵜沢晋

被告 神奈川県平塚県税事務所長 北見俊夫

右訴訟代理人弁護士 山下卯吉

被告 平塚市長 加藤一太郎

右訴訟代理人弁護士 外池簾治

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一原告らの請求の趣旨

(第一次的請求)

「被告東京国税局長が各原告に対し昭和三九年四月二〇日付でした第二次納税義務告知並びに同年六月一一日付で別紙目録(一)記載の建物についてした参加差押え及び、同月一六日付で原告朝井三喜に対し別紙目録(二)、(三)記載の土地建物についてした差押えはいずれも徴収金額一一五万五、五一八円を超える限度において無効であることを確認する。

被告神奈川県平塚県税事務所長(当時神奈川県中地方事務所長)が各原告に対し昭和三八年一二月二七日付でした第二次納税義務告知並びに昭和三九年三月一四日付で別紙目録(一)記載の建物についてした差押えはいずれも徴収金額二九万三、九三二円を超える限度において無効であることを確認する。

被告平塚市長が各原告に対し昭和三九年七月一六日付でした第二次納税義務告知並びに同月一八日付で原告朝井三喜に対し別紙目録(二)、(三)記載の土地建物についてした参加差押えはいずれも徴収金額五万〇、五五〇円を超える限度において無効であることを確認する。

訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決

(第二次的請求)

「被告東京国税局長の前記第二次納税義務告知並びに参加差押え及び差押えは徴収金額一一八万五、八二八円を超える限度において無効であることを確認する。

被告平塚市長の前記第二次納税義務告知並びに参加差押えが無効であることを確認する。

訴訟費用は被告東京国税局長及び被告平塚市長の負担とする。」との判決

(第三次的請求)

「被告神奈川県平塚県税事務所長(当時神奈川県中地方事務所長)の前記第二次納税義務告知並びに差押えが無効であることを確認する。

被告平塚市長の前記第二次納税義務告知並びに参加差押えが無効であることを確認する。

訴訟費用は被告神奈川県平塚県税事務所長及び被告平塚市長の負担とする。」との判決

第二被告らの請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決

第三原告らの請求原因

有限会社アサイ洋服店は、昭和三五年一〇月一日から昭和三六年九月三〇日までの事業年度の法人税、同加算税計一、二六八万九、三二〇円、法人事業税、法人県民税、同加算税計二八八万五、〇三〇円、法人市民税四九万六、二三〇円を滞納したまま昭和三七年一一月七日解散したが、被告らは同社の財産について滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足し、その不足の原因は同社が原告らに対して昭和三六年七月一四日と同年八月一六日の二回にわたり別紙目録記載の建物の取得資金九〇〇万円を贈与したことにあり、したがって、原告らがそれぞれ国税徴収法三九条、地方税法一一条の八所定の第二次納税義務者に該当するものであると認め、被告神奈川県平塚税事務所長(当時神奈川県中地方事務所長、以下同じ。)にあっては、各原告に対し、昭和三八年一二月二七日付で徴収金額四八万〇、八三八円の第二次納税義務の告知をなし、続いて、昭和三九年三月一四日原告らの共有に係る別紙目録(一)記載の建物を差し押え、被告東京国税局長にあっては、昭和三九年四月三〇日付で各原告に対し徴収金額一五〇円の第二次納税義務の告知をなし、続いて、同年六月一一日右建物について参加差押えをするとともに、同月一六日原告三喜に対し同原告所有に係る別紙目録(二)、(三)記載の土地建物を差し押え、さらに、被告平塚市長にあっては、昭和三九年六月九日付で各原告に対し徴収金額八万二、七〇五円の第二次納税義務の告知をなし、続いて同年七月一八日原告三喜に対し同原告所有に係る別紙目録(二)、(三)記載の土地建物について参加差押えをした。

しかし、被告らのした第二次納税義務の告知は、いずれも、次に述べるごとく、現存利益の額を起える限度において、法の解釈適用を誤った当然無効の処分であり、したがって、差押え、参加差押えも、同限度において無効であるというべきである。

すなわち、

前記国税徴収法三九条、地方税法一一条の八の各規定によれば、第二次納税義務者の負担する納税義務の範囲は、その者が滞納者の処分によって受けた現存利益の額を限度とするものであるが、国税と地方税とが競合する場合につき、法は、その告知金額の調整に関し何らの規定をも設けていない。しかし、主たる納税義務に関し国税と地方税とが競合する場合については、法が税率等によって課税額の調整を図っていることからみて、また、第二次納税義務における告知が同時に徴収手続の一環をなすことを考えれば、第二次納税義務にあっても、告知の段階で告知金額の合計額が現存利益の額の範囲にとどまるように調整されなければならない。しかるに、被告らは前叙のごとく、原告らが前記会社より贈与を受けた金員は九〇〇万円、その一人当り金額は一五〇万円であるにもかかわらず、該現存利益の額を無視して各告知に及んだのであるから、これらの告知処分は、いずれも、現存利益の額を超える限度において、無効であるというべきである。

(第一次的請求原因)

ところで、右のような場合各課税権者の告知しうる第二次納税義務の割合いは、公平の原則に従い、滞納者に対して有する滞納金納付請求権の額に按分して定めるのが妥当であり、これによれば、国税は、各原告につき一一五万五、五一八円(計六九三万三、一〇七円)、県税は、各原告につき二九万三、九三二円(計一七六万三、五九三円)、市税は、各原告につき五万〇、五五〇円(計三〇万三、三〇〇円)となる。

(第二次的請求原因)

仮りに、右按分の方法を採りえないとしても、徴収段階における国税と地方税との調整に関する先着手優先の規定(国税徴収法一二条、一三条、地方税法一四条の六、七)は、第二次納税義務の告知についても類推適用されるべきであり、これによれば、前叙のごとく、原告らに対する第二次納税義務の告知は、まず被告神奈川県平塚県税事務所長が、次いで被告東京国税局長が、最後に被告平塚市長がしたのであるから、県は、最優先順位を確保して全額二八八万五、〇三〇円(各原告につき四八万〇、八二三円)を徴収しうることとなり国は現存利益九〇〇万円の残額七一一万四、九七〇円(各原告につき一一八万五、八二八円)の限度において徴収権を有し、市は、全然徴収権を有しえない結果となる。

(第三次的請求原因)

また、百歩をゆずり、右徴収に関する調整規定の類推適用も許されないとしても、国税優先の原則を規定した国税徴収法八条の規定は、本件のごとき第二次納税義務の告知についても準用があるものと解すべきであり、これによれば、国だけが現存利益九〇〇万円全額を徴収しうることとなり、県及び市は、全然徴収権を有しない結果となる。

第三被告らの請求原因に対する答弁並びに主張

(答弁)

原告ら主張の請求原因事実はすべて認めるが、その法律上の主張は争う。

(被告東京国税局長の主張)

国税徴収法及び地方税法は、各税の第二次納税義務を別個独立の義務として規定する(国税徴収法三九条、地方税法一一条の八参照)とともに、先着手優先の原則によって国税と地方税とが徴収について競合する場合の調整を図る(国税徴収法一二条、一三条、地方税法一四条の六、七参照)――もとより、第二次納税義務者においては、国税、地方税のいずれを先に納付するかは自由であり、納付の限度において第二次納税義務が消滅ないし縮少する――こととしているのに対し、徴収前の段階たる告知及び差押えについての競合に関しては、何らの規定をも設けていない。このことは、告知、差押えの段階ではまだ調整の必要がないとの配慮に出たものであって、各課税権者は、それぞれ第二次納税義務につき現存利益の額の限度において告知及び差押えをなしうるものというべきである。原告ら主張のように按分によって告知額を決定することは、前叙のごとく法が徴収の段階において調整すべきものとしている趣旨に反するのみならず、その前提条件として必要な各課税権者が予め他の者の滞納金納付請求権の額を確認することが実務上至難であることにかんかみ、この点に関する原告らの主張は、失当というべきである。

(被告神奈川県平塚県税事務所長の主張)

地方税法一一条の八にいう現存利益とは、納入又は納付の通知書を発する時を基準として、その時までに生じた滅失、毀損消費等はもとより、受益の事実と相当因果関係に立つすべての費用、損失の額を控除した残存利益を指すものと解すべきであり、同条にいう受けた利益についても、右基準時までに生じた消失利益や費用、損失が控除されない点については現存利益と異なるが、右基準時以降においてはこれと取扱いを異にすべき理由はない。そしてまた、第二次納税義務の告知によって、その債権・債務は具体的に確定するとともに、第二次納税義務者は該債務の履行の請求を受けたこととなるのであるから、右の告知は、受益の事実と相当因果関係に立つ現実の損失というべきである。したがって、第二次納税義務について国税と地方税とが競合する場合、課税権者は、すでに他の課税権者が課している告知額相当額を控除した額をもって現存利益又は受けた利益とし、その限度内で告知するのが相当である。しかして、被告神奈川県平塚県税事務所長が原告らに対して第二次納税義務の告知をした時点において、他の課税権者よりの告知はなく、原告らの受贈利益が全額現存していたのであるから、同被告のした告知及び差押えは、有効であるといわなければならない。

原告らは、各課税権者の告知額は滞納金納付請求権の額に按分して決定すべきであると主張するが、かかる主張は、すでに有効に成立した先順位の課税権者の告知処分が後順位者の告知処分によって全部又は一部無効となり、また、各課税権者の請求金額が確定するまで第二次納税義務者の債務金額も確定しないという不都合な結果を招来するので、到底、賛同しえない。また、国税徴収法八条にいう「公課」には地方税が含まれないこと法文上明らかである(同法二条五号、地方税法一四条参照)から、国税徴収法八条の規定を準用して第二次納税義務の告知について国税を地方税に優先せしめんとする原告らの主張も、また、失当たるを免かれない。

(被告平塚市長の主張)

第二次納税義務について国税と地方税とが競合する場合においては、原告ら主張のごとく、各課税権者の告知額は、滞納金納付請求権の額に按分して決定するのが相当である。なお、先着手優先の原則を規定した国税徴収法一二条、一三条、地方税法一四条の六、七の規定は、いずれも、徴収に関するものであって、告知、差押えについては準用できず、また、国税徴収法八条にいう「公課」には地方税が含まれないこと明らかであるから、原告らの第二次的及び第三次的請求は、その理由がない。

第四証拠≪省略≫

理由

有限会社アサイ洋服店が原告主張のような国税、地方税を滞納したまま解散したところから、被告らが原告らを国税徴収法三九条又は地方税法一一条の八所定の第二次納税義務者であると認めてこれに対し、それぞれ主張の日に本件各第二次納税義務の告知、差押え、参加差押えの処分をしたことは、当事者間に争いがない。

原告らは、国税と地方税とが競合する場合、第二次納税義務にあっても、主たる納税義務についてと同様に、すでに課税の段階において、各課税権者の告知金額の合計額が第二次納税義務の限度内にとどまるように調整されることを必要とすると主張し、そのことを前提として、本件各処分の違法を攻撃する。しかし、第二次納税義務は、滞納者の財産に対して滞納処分をしても徴収すべき税額に不足すると認められる場合において、その租税の徴収を確保するため、法律の規定によって、滞納者と一定の関係にある者に対して課せられる納税義務であって、その者が滞納者から受ける利益の現に存する限度又はその受けた利益の限度において滞納者の租税債務を第二次的に履行することを内容とするものである(国税徴収法三三条ないし四一条、地方税法一一条の二ないし八参照)。したがって、第二次納税義務に係る租税債務は、主たる納税義務に係る租税債務とは別個の債務ではあるが、専ら、主たる納税義務に係る租税債務の強制的実現の手段として認められるものであるから、現行法が告知の方法にって徴収しようとする金額を具体的に確定すべきこととしているとはいえ、その本質は、単純な債務というよりはむしろ責任であり、これについて設定された右の限度も、租税徴収の限度を意味するものと解すべきであり、現行法が国税と地方税とが換価代金について競合する場合の調整規定(国税徴収法一二条、一三条、地方税一四条の六、七)を設けているのに対し、換価前の段階たる告知及び差押えについて競合する場合の調整に関しては何らの規定を設けていないのも、正に、かかる理由に基づくものというべきである。

そして、右のように解したからといって、第二次納税義務に係る租税債務が、前叙のごとき性質上、主たる納税義務に係る租税債務に対して補充性と附従性とを有し、主たる納税義務に係る租税債務の履行がない場合において第二次的に履行すべきものであって、その一方の履行は当然に他の消滅をきたす関係にあり、しかも、第二次納税義務自体の責任の限度額が前叙のごとく確定されている以上、第二次納税義務者に対して不要の出捐を強いる恐れはなく、このことは、原告ら主張のごとく告知が同時に第二次納税義務者に対して確定に係る租税債務の履行を請求する意義を有するものであるということによって、その結論を異にするわけではない。かえって、原告ら主張のごとく解すれば、告知の段階で各課税権者が他の課税権者の有する滞納金納付請求権の額を正確に把握することが事実上困難であるばかりでなく、告知後にいたり滞納者が滞納に係る租税債務を任意に履行したり、同人の財産の換価(国税徴収法三二条四項、地方税法一一条三項参照)によって一部納付がなされたような場合には、各課税権者の告知額を予め調整してみても、それが無益に帰するという不都合な結果を招来することとなる。それ故、第二次納税義務につき課税の段階で国税と地方税とが競合する場合において、各課税権者は、それぞれ、第二次納税義務者が滞納者より受けた利益の現に存する限度又はその受けた利益の限度において、告知及び差押えをなしうるものというべきである。

されば、右と異なる見解を前提とする原告らの請求は、その前提においてすでに失当たるを免がれないので、これを棄却することとする。

なお、原告らは、三つの請求を併合し、それぞれに審判の順位をつけて申し立てているが、そのいわゆる主位的請求と各予備的請求とは、いずれも本件各告知、差押え、参加差押え処分の違法性が審判の対象となっていてその訴訟物を共通にし、互いに両立しない関係に立つものではなく、所詮、その違法の理由と請求の範囲が予備的に主張されているにすぎないものであるから、当裁判所は、これらの請求を一個の請求と認めて審理判断した。また、原告らの本訴請求は、行訴法一六条及び一七条の各併合の要件を充足するものとは認め難いが、原告らの請求の趣旨、態様が前叙のごときものであってこれを分離しえないため、やむなくそのままで取り扱うこととした。

よって、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 園部逸夫 渡辺昭)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例